鉄道車両には安全、安定、快適、高速に走るために様々な機器が搭載されています。
台車や制御装置、駆動装置、ブレーキ装置、補助電源装置、クーラー、パンタフラフ、等々……
数え挙げればきりがありませんが、そんな機器類の中でも軌条塗油器はマニアックな部類でしょう。

※軌条塗油器とは……
その名の通り軌条(レール)に油を塗布する器械のことです。
その目的として、曲線外軌側へ塗布する場合は、
・レール側摩耗防止
・フランジ摩耗防止
曲線内軌側へ塗布する場合は、
・きしり音等の騒音防止
・レール頭頂面の波状摩耗防止
が挙げられます。※1
軌条塗油器には車上搭載式と地上設置式の双方がありますが、
東急の場合、その両者が使用されているようです。
今日はそんな軌条塗油器に着目します。

車上式
東急田園都市線の場合、8500系、2000系、5000系の付随車に設置されています。
どの系列も海側・山側双方の軸箱から延ばした梁に噴射装置を垂下させる形状となっています。

8500系
2018年5月某日 高津にて 東急8632F  サハ8964IMG_4643


2018年4月某日 二子新地にて 東急8623F  サハ8960
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2000系
2018年3月某日 二子新地にて 東急2001F  クハ2001
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2018年4月某日 藤が丘にて 東急2002F クハ2002
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左に写っている四角い箱は塗油器本体です。

5000系 
2018年4月某日 二子新地にて 東急5114F クハ5014
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2018年4月某日 二子新地にて 東急5115F クハ5015
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どの形式も非常に目立つ存在ですので、模型で再現すると存在感が出ると思います。
ただ、Nゲージサイズだと細い線材になってしまうので、
丁寧に扱わないとボロボロになってしまいそうです。


地上式
2018年3月某日 二子新地にて 大井町線上り
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東急は車上式が普及しており、大井町線の9000系にもクハに搭載していますが、
それだけではないようです。
写真は二子新地のホームから撮影した大井町線上りの地上設置式レール塗油器です。
列車の進行方向に向かって灰色の油が飛び散っているのがわかります。
上写真奥に見える円筒形のタンクに油を入れるのでしょうか。

この付近は住宅街が接近しているために騒音防止の意味合いがあるのだと思います。
この塗油器のすぐ二子玉川寄りにはS字に近い曲線が挟まっていますから。

先頭車に乗ってこの付近の線路を見てみてください。
ここ以外にも高津~二子新地間にいくつか塗油器が装備されています。
灰色の油が飛び散っている箇所がそれですね。


しかし、このレールへの塗油ですが、レール傷の観点から見るとあまり推奨できません。
というのも、確かに急曲線上は摩耗が進むので極度に摩耗することも困りますが、
ある程度の摩耗はレール面の転がり接触疲労層と呼ばれるレール傷の卵を削り取る効果もあります。

塗油すると摩耗が減り転がり接触疲労層が残るため、きしみ割れと呼ばれる細かい亀裂や剥離から
レール破断に繋がるシェリング傷を誘発しかねません。
特に曲線外軌レールの内側(ゲージコーナー)にできるシェリングは、きしみ割れから横裂を伴う
ゲージコーナーシェリングに発展する可能性があり、傷の進行が速いため注意が必要です。※2

結局のところ騒音や摩耗進行防止をとるのか、レール傷防止をとるのか、
問題となる曲線付近の環境やコストを比較して各社とも最適な方法をとっているのですね。


参考文献
※1:萬谷太郎 村越史明 瀧川光伸,車輪とレールの潤滑手法の研究,JR東日本JR East Technical Review No.17 P59~P63
※2:保線ウィキ,シェリング,ゲージコーナーシェリング 参照