新型コロナウイルスが猛威を振るい、世の中の混迷ぶりはあの東日本大震災の頃を思い出させるようで大変芳しくない状況です。
例にもれず私も在宅勤務でこもりがちですが、これを機にひとつ思考を整理するのもよいかと考えました。
まず手始めに、当ブログ"銀色電車研究室 @nano factory公式ブログ"の大元である"nano factory株式会社"について、代表の思いやら考えやら方向性やらをつらつらと文字に書き起こすことで、まとまらない思考をまとめていきたいと思います。

あ、もっと概略的な会社紹介やあいさつ文は公式HP内 会社概要にて記しておりますので、基礎的な情報はそちらをご参照ください。
本記事では公式HPには収まらない代表者の頭の中の思考をぶちまけたいと思います。
1.なんで"nano factory"という鉄道模型メーカーを立ち上げたのか?
まずそもそもの立ち上げ理由ですが、これは単純に"会社というものを経営してみたかった!" "自分が納得いく模型を作りたかった!"だけなのです。
文字に書くと、「なんて子供じみた理由!」と思わなくもないですが、思考を突き詰めると結局そこに行きついてしまうのです。
だってそうじゃありませんか。自己資金をうまく使って理想の模型製作会社をつくる!っていうのはモデラ―の夢じゃないでしょうか?
そこにさらに深い理由などないことはモデラ―なら自明でしょう。
2."nano factory"という名の由来
実は当初の構想では別の名称を考えていました。
その名も"東京横濱工藝"
略して"東横工藝"でもいいのですが、さすがにその略はいろいろと混乱するので止めました(笑)
まさしくTKKシリーズの精緻な模型化を第一としたかった当初構想にぴったりだと思ったのですが、一つ重大な欠点がありました。
弊社は千葉県が本社なのです……
まあ、別にその点で整合性をとらなくてもいいのですけど、やっぱりカッコ悪いですよね💦
また、名称が長かったり、英語表記を別に考えなければならなかったり、悩んだ挙句今の"nano factory"に落ち着きます。
まず、"工藝"の語は残したかったので、頭に何を付けるかで悩みます。
考えた挙句、マイクロエースという鉄道模型メーカーがあることに着目し、"さらに細かくこだわる"・"細かくつくりこむ"という意味合いを持たせて、マイクロよりさらに小さい"ナノ"の単位接頭語を持ってきたのです。
"ナノ"+"工藝"="ナノ工藝"では格好がつかないので、いつかの海外展開(笑)も考えて英訳し"nano factory"の名称に至ります。
3.ステンレスエッチング製法をやめた理由
これは過去のブログ記事やTwitterでも書きましたが、今でこそ3Dプリントメインの弊社も当初はステンレスエッチングを主要製法として模型化するつもりでした。
TKK車はじめ、あのステンレスの質感を出すにはやはり本物のステンレスを使ってエッチングするのが一番ではないか?と考えた次第です。
8500系SUSエッチング
実際ステンレスエッチングは、当初こそ激しい反りや腐食部の艶の無さに悩まされたものの、対策法を半年近く費やし練りに練った結果、どちらの問題も解決して"見た目だけ"なら素晴らしものができたのです。
帯塗装に関しても、焼付可能なデカールを発注することで概ね解決できました。
しかし、ステンレスという材質は、
・硬すぎる
・硬すぎる故曲がらない
・扱いやすいレベルの薄さにすると掘り込みが浅くなる
・ステンレス用フラックスを使用しないと半田付けできない
・ステンレス用フラックスが表面につくと錆びて修復不能
という致命的な欠点を抱えていました。
207系900番台SUSエッチング


TKK8500系のような箱型ストレートボディならハンドベンダーで90°に曲げるなどしてどうにかなるのですが、裾絞りのある車体はプレス機曲げでなければまず再現不可能です。
そしてプレス成形は金型を必要とするのでイニシャルコストが跳ね上がります。
いくら見た目に優れているとはいっても、扱いやすさやコスト面を考えるとまるで話になりません。
8500系だけを生産するならまだいいですが、そういう訳にもいかないことを考えると、ステンレスエッチングという製法そのものが適さないという判断に至りました。
4.3Dプリント製法をメインとした理由
では逆に、ステンレスエッチングではなく3Dプリントをメインとしたのはなぜか?という問いですが、やはりこの部分に弊社の革新的で核心的な部分があると思います。
多くの人にとって3Dプリントのメリットは、"何でもその場で形にできる"という点にあると思われます。
そのメリットは確かに弊社的にも十分恩恵を受けているのですが、より詳しく具体的にいうならば、
・データ完成⇒発注⇒造形⇒発売までのリードタイムが短い
・切削用のCAMや射出成型上の特殊な設計技術を必要としない
・その都度生産なので少量多品種生産に向いている
・3DCADさえ扱えれば誰でもデータを編集して出力できる
という点が挙げられます。
そして、最初のステンレスエッチングには無いメリットが3DCADでは4項目すべてに共通してあるのです。
それは一言で言ってしまえば、”圧倒的に手軽につくれる”ということ。
外注にしろ内製にしろ、検討事項・設計技術・時間・コストなどが、特に少量多品種生産の場合に圧倒的に有利なのです。
そしてこの手軽さという武器は、売り手だけでなくユーザーにもやさしいのです。
日本でHOゲージよりNゲージが普及したのは、"部屋が狭いから"といわれます。
しかしそれ以上に、KATOやTOMIXをはじめとしたNゲージメーカーがシステマチックで誰でも扱いやすいシステムを構築したことが大きいのではないでしょうか?
ロストワックスやエッチングプレスの方が質感やディテールに優れるのはわかりますが、結局のところ大多数は"模型"が欲しいのであって、"キットを作りたい"ではないのですよね。
鉄道コレクションのように塗装や印刷に一部不備がある場合でも広く流行ったのは、修正が効かないプロポーションの部分さえ完璧であれば金属キットよりもそちらの方が良い・十分と捉える人が多かったのだと思います。
何が言いたいのかというと、鉄道模型の"少量多品種"な要素をカバーするのにもっとも便利なのが3Dプリント製法だった、というわけです。
5.3Dプリント製法で見いだされた新たな利便性
さて、3Dプリントが"少量多品種"の生産に向いていることはわかりました。
しかし私は、3Dプリントにさらなる期待を寄せています。
それは、次の2点です。
1.その都度生産で在庫の心配無用
2.データ加工でオリジナリティを簡単に出せる
1については、鉄道模型業界の難点を解決してくれます。
つまり、射出成型による大量生産では長期の在庫欠品が避けられない、という難点を掛け何時してくれるのです。
欲しい模型が手に入らない、という経験は、鉄道模型をやっていると誰にもあるものですが、これはメーカーにとって機会損失ですし、ユーザーにとっても不便極まりないことです。
3Dプリントならば、データと原料さえあれば数時間~1日あれば造形できます。
もちろん在庫があるに越したことはありませんが、長期欠品というサポート上の問題を解決できるのは大きいのではないでしょうか?
2については、3DCADが扱えることが前提になってきます。
ここはハードルが高いと感じる人も多いので一考の余地はありますが、弊社としては3DCADを扱うハードルを下げるための施策こそ企業に必要だと考えます。
CADソフト大手のAutodeskは、3DCADソフト"FUSION360"の無償使用範囲を広く設定することで、ユーザーの囲い込みに成功しています。
この施策は、"3DCADは価格が高い"というハードルを大幅に下げることに成功しました。
同社の様々な有償サービスともシームレスに利用できるために、たとえFUSION360で業績を上げられなくとも、他の部分で補えるからこそできたことでしょう。
それと同様に、弊社としても何とか大勢のモデラ―に3DCADや3Dプリントモデルに親しんでもらいたいと思っています。
3Dプリント製模型が発達してきているとはいえ、現在発売されているものの多くはパーツ単位のものばかりで、実際に使用しているユーザーはさらに限られているのではないでしょうか。
弊社としては、まず3DCADを扱って簡単な編集ができるようになってほしい、と思います。
そこができれば、かなり3Dプリント模型というものがメジャーになってくると思うのです。
取組みの一つとして、弊社では昨年夏より、弊社設計の3D鉄道模型モデルデータを期間限定で2点ほど無償配布しました。
多くの方にダウンロードしていただき、各々好きに編集していただけたことと思います。
練習素材としても、すでに出来上がっている車両データを弄りながら練習できるので、モチベーションを保ちながら遊べたのではないでしょうか?
無償配布第1弾
無償配布第2弾
そのような点に着目して、より広範にデータを提供出来たら、なんてことを考えています。
実をいうと、3Dプリンタで模型を出力して販売する事業より、この"データ配布"の方が事業として本命なのではないか?と考えるようになってきています。
その意味でも、3DCADを扱える人が増えることは弊社にとって嬉しいことですし、モデラ―として今後必須の習得技術になってほしいと思います。
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思考を巡らす、というよりこれまでの経緯の紹介みたいになってしまいましたね。
まあそれでもいいのですが……
紆余曲折を経てこうして3Dプリント模型を作ってきましたが、それによって多くのお客様に喜んでいただける模型が作れたことは一モデラーとしても大変うれしく思います。
長くなってしまったので一度ここで切って、コロナ騒ぎが長引くようであれば第2弾を書きたいと思います。
こんなところが知りたい、○○についてどう思っているか?等々聞きたいことがありましたらコメント欄にお書きください。
お答えできる範囲でできる限り答えたいと思います。
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