前回の続きです。
線路線形は一応確定したので、鉄道土木構造物や道路構造について計画していきます。
今回も基本となる省令を基に、"一応それなりに規格通りに"つくりましょう。


鉄道施設
・施工基面幅
施工基面幅とは、軌道を支える基礎となる路盤幅のことです。
模型的には盛土の天端部分の幅と同義と考えてもらってよいでしょう。
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省令ではかなり大雑把で、各事業者ごとに安全運行上の重大な欠陥がない限り自由に構造物ごとに必要な施工基面幅が決まっています。
施工基面の幅は、軌間、軌道構造、線路附帯設備、保守作業等を考慮し、軌道の機能を維持できるものとし、次の基準に適合するものであること。
(1) 普通鉄道(新幹線を除く。)及び鋼索鉄道の施工基面の幅は、次のとおりとする。
① 盛土区間及び切取区間における施工基面の幅(軌道中心線から外縁までの長さをいう。)は、軌道の構造に応じ軌道が受ける荷重を路盤に円滑に伝達し、軌道としての機能を維持できるものとする。
また、係員の作業又は待避等行う側については、当該区間の建築限界に 0.6m 以上拡大したものとする。
② ①において、曲線区間における施工基面の幅は、相当量拡大すること。拡大量は、次の式によることを標準とする。

y = α・C

この式において、y、α、Cは、それぞれ次の数値を表わすものとする。
y:拡大寸法(単位:mm)
α:各軌間での標準断面において算出した係数で、標準値である。
(軌間 762mm の場合:3.26)
(軌間 1,067mm の場合:3.35)
(軌間 1,372mm の場合:2.67)
(軌間 1,435mm の場合:3.06)
C:実カント(単位:mm)
③ 高架橋等その他の構造の区間における施工基面の幅は、2.75m 以上とする。ただし、
軌道構造、待避等を考慮し、支障がない場合は縮小することができる。
④ 無道床橋りょう、トンネル等であって、係員の待避のために施工基面の幅を確保する
ことが困難な箇所においては、列車速度等を考慮し待避所を設けるものとする。この場
合において、待避所は 50m ごとに設置するものとする。


というわけで、施工基面幅の決定要因としては、盛土・切取区間、待避所の有無、曲線区間、高架区間、無道床区間、トンネル区間で分けられるのですね。

今回対象となるのは、盛土・高架橋・無道床橋梁の3区間で、いずれも曲線R900mの区間です。
高架橋と無道床橋梁はKATO既製品を流用するため考慮しませんが、盛土は考えてあげましょう。
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盛土区間には具体的な数値が定められておりません。
また、曲線区間のため、カントによる外軌側への偏りを考慮して施工基面幅を拡幅します。
拡幅量は省令にある式の通りあてはめれば、

y=3.35×105mm=351.75mm≒352mm

の拡幅が必要です。


KATOユニトラックの道床幅は25mm、複線間隔33mmなので、保守用通路として上下線0.5m=
(500mm/150≒3.3mm)、拡幅量352mm=(352mm/150≒2.4)ずつ確保するとして、


盛土箇所の施工基面幅は、

3.3+5+25/2+33+25/2+3.3+2.4=67mm

となりました。
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・盛土
高架橋やプラットホームは既存品を使いますが、盛土は自作設計となります。
施工基面幅は前述の通りですが、それはつまり盛土の天端の幅が決まったにすぎません。
それ以外の部分について検討していきます。

盛土にも決まりごとはいろいろあるのですが、省令では"鉄道構造物等設計標準・同解説(土構造物)"を参照せよ、となっており、こちらはネット上では公開されていないようなので詳しくご説明できません。

しかし、鉄道にしろ道路にしろ、盛土構造物で最も見た目に影響を及ぼす要素は、法面勾配にあると思います。
一般的に法面勾配は、盛土高さを1としたときの底辺長の比率で定められており、高さや土質にもよりますが、おおむね1:1.5~2.0程度と定められていることが多いようです。
逆に、切取の場合は1:1の45°前後とする場合が多いようです。
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参考までに、国交省北陸地方整備局の道路盛土の場合の規定をご覧ください。
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1:1.5~2.0の法面勾配とは、つまり盛土高さが1mならば、盛土の底面は1.5m~2.0mになるということです。
これよりも勾配が緩いと必要以上に土地を要しますし、逆に勾配がきついと降雨時や地震で法面が崩壊する可能性が高くなってしまいます。
敷地面積の関係上どうしても法面幅が確保できない場合は、擁壁を造る必要があります。
鉄道盛土で擁壁を設ける場合は、盛土そのものの自重のほかに、列車の走行荷重も考慮して設計してあげなければなりません。

今回のジオラマでは、盛土高さが1/150換算で約31mmあるので、1:1.5の法面勾配として46.5mmの底辺長を確保しています。

この法面勾配の概念はジオラマ製作上結構重要だと考えています。
というのも、盛土構造はジオラマの地平水準から鉄道路線が高くなり、主役となる鉄道車両が映える構造です。
また、実際の鉄道においても、比較的安価で造成が簡単な盛土構造は多用される土工設備の1つであり、実感的な鉄道ジオラマを目指すならば是非とも取り入れたい土工設備の一つです。

しかしながら、今流行りのレンタルレイアウトなどにおいては、ジオラマスペースの関係上か法面勾配が急な事例が散見されます。
趣味のジオラマにとやかく言うのは無粋ではありますが、やはりリアルさを追求するなら法面勾配に気を遣うことはかなり有効な策でしょう。
盛土は構造上ジオラマ内で非常に目立つ上、法面勾配が適正な盛土は、線路の周囲に安定感が出ます。

最低限1:1程度は欲しいところですが、どうしても法面勾配が確保できない場合は、
 ・施工基面端から1:1以上の勾配で造った後、足りない分を擁壁とする。
 ・盛土を造成する箇所を嵩上げする。
とすることで、リアルさと実用面の両立を図りましょう。
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・停車場
停車場とはすなわち駅のことですが、厳密にいえば停留場とは区別されるものです。
しかしここではまとめて駅のことでよいでしょう。

省令を参照したいところは次のプラットホームの箇所です。

プラットホームの幅は、次のとおりとする。
① 普通鉄道(新幹線を除く。)及び特殊鉄道(新幹線を除く。)のプラットホームの幅は、両側を使用するものにあっては中央部を 3m 以上、端部を 2m 以上、片側を使用するものにあっては中央部を 2m 以上、端部を 1.5m 以上とする。

(3) 普通鉄道(新幹線を除く。)及び特殊鉄道(無軌条電車及び新幹線を除く。)のプラットホームにある柱類及びこ線橋口等の壁とプラットホームの縁端との距離は、次のとおりとする。
① プラットホームにある柱類とプラットホームの縁端との距離は 1.0m 以上とする。
② プラットホームにあるこ線橋口、地下道口、待合所等とプラットホームの縁端との距離は、1.5m 以上とする。
③ ①及び②の規定は、列車に対し十分に旅客を防護する設備(以下「ホームドア又は可動式ホーム柵」という。)を設けたプラットホームについては、適用しない。
④ホームドア又は可動式ホーム柵を設けたプラットホームにあっては、プラットホームにあるこ線橋口、地下道口、待合所等とホームドア又は可動式ホーム柵との距離は、1.2m以上(旅客の乗降に支障を及ぼすおそれのない箇所にあっては、0.9m 以上)とする。

(5) 列車の速度、運転本数、運行形態等に応じ、プラットホーム上の旅客の安全を確保するため、次のとおりとする。
① 第7条の規定のうち、一般の旅客に対しても、安全上の観点から必要なものとして、次によることを標準とする。
(ア) プラットホームと車両の旅客用乗降口の床面とは、できる限り平らであること。
(イ) プラットホームの縁端と旅客車の床面又は踏み段の縁端との間隔は、車両の走行に支障を及ぼすおそれのない範囲において、できる限り小さくすること。ただし、構造上の理由によりやむを得ず当該間隔が大きい場合は、旅客に対しこれを警告するための設備を設けること。
(ウ) プラットホームの線路側以外の端部には、旅客の転落を防止するための柵を設けること。ただし、当該端部が階段である場合、その他の旅客が転落するおそれのない場合は、この限りでない。
(エ) プラットホームの床の表面は、旅客が滑りにくい仕上げにすること。
(オ) プラットホーム上の旅客に対し、列車の接近を文字等による警告するための設備及び音声により警告するための設備を設けること。ただし、電気設備がない場合その他の技術上の理由によりやむを得ない場合は、この限りでない。
② プラットホーム縁端の笠石等は、滑り止めを付けるなど、滑りにくい仕上げとすること。
④ 跨座式鉄道、懸垂式鉄道及び無軌条電車以外の鉄道において、列車の速度が高く、運転本数の多い区間におけるプラットホームについては、旅客の安全を図るため、次の措置を講ずること。ただし、ホームドア又は可動式ホーム柵が設置されている場合は除く。
(ア) 非常時に列車を停止させるための押しボタン又は転落検知マットを設置する。
(イ) 転落した旅客が待避できるよう、プラットホームの全長にわたり、プラットホーム下に待避スペースを確保する。ただし、構造上等やむを得ない場合は、プラットホームに上がるためのステップとすることができる。
⑦ ①(イ)及び(オ)並びに②の規定は、車両に直接接続する形式のホームドアを設けたプラットホームについては、適用しない。
Ⅳ-3 第37条(旅客用通路等)関係
旅客用通路及び旅客用階段の幅員は、旅客の円滑な流動に支障のないものとするため、また、旅客用階段には、旅客の転落等の防止を図るため、次の基準に適合するものであること。
(1) 旅客用通路及び旅客用階段の幅は、1.5m 以上とすること。
(2) 旅客用階段には概ね高さ 3m 毎に1ヵ所踊り場を設けること。
(3) 旅客用階段には、手すりを設けること。

整理すると、宮前平駅の場合、中央部2m以上、端部1.5m以上を確保してプラットホームをつくれ、ということになります。
まあ、このあたりは普通に作っていればクリアしている部分ではありますが……



・道路構造
このジオラマでは鉄道に次いで目立つ存在である道路。
メインとなる道路は川崎市都市計画道路尻手黒川線、通称尻手黒川道路です。
宮前区の住民にとってはよくお世話になる道路ですね。

そしてちょうどトラス橋下で2車線と1車線一方通行の市道が尻手黒川道路と交差し、"宮前平ガード下"の交差点名が付けられています。

この道路の設計も、この機会に決まりに沿って設計してみたいと思います。

道路にも鉄道のように、道路構造に関して定められた政令があります。
それが道路構造令です。
予測される交通量を基に車線数や道路幅員を決定し、円滑な道路交通を実現します。
ここからさらに、省令や各自治体による道路条例・政令が策定されていきますが、基本的には道路構造令を大本として策定されているはずです。

それでは、道路構造令と照らし合わせながらジオラマ設計をしていきましょう。

・都市計画道路
実際の道路計画では、何より交通需要予測が真っ先に必要なわけですが、ジオラマに落とし込むにあたってはモデルとなる道路があるので、まずは尻手黒川道路の幅がどの程度か知りたいところです。

尻手黒川道路は都市計画道路であり、都市計画道路には番号が付されています。
尻手黒川道路の場合、"川崎都市計画道路3.4.9号尻手黒川線"が正式名称です。
この"3.4.9"が道路の種類を表しており、
左側から順に、区分・規模・一連番号(○・○・○○)を示しています。

区分

  • 1:自動車専用道路 
  • 3:幹線街路
  • 7:区画街路
  • 8:特殊街路(歩行者専用道路、自転車道、自転車歩行者道)
  • 9:特殊街路(都市モノレール専用道路)
  • 10:特殊街路(路面電車)

規模

  • 1:代表幅員40 m以上
  • 2:代表幅員30 m以上40 m未満
  • 3:代表幅員22 m以上30 m未満
  • 4:代表幅員16 m以上22 m未満
  • 5:代表幅員12 m以上16 m未満
  • 6:代表幅員8 m以上12 m未満
  • 7:代表幅員8 m未満

一連番号

都市計画区域ごとに、一連番号が付けられる。


というわけで、この番号から尻手黒川道路は、
幹線道路・代表幅員16m以上22m未満・川崎市で9番目の都市計画道路
ということがわかります。

少なくとも幅員16m以上22m未満であることはわかりました。

ここでさらに道路構造令を見てみると、さらに詳しく道路構造を定めていることがわかります。


・道路構造令
道路構造令は高速道路や一般国道の技術基準ですが、地方自治体の条例で定める都道府県道や市町村道の構造においても参酌すべき技術基準となるものである、としています。
また、この道路構造令の実務的な運用にあたり、日本道路協会より"道路構造令の解説と運用"なる図書が発行されており、おおむねこの基準に沿った道路設計がなされています。

・道路の種級区分
道路の種級区分とは、道路構造令第3条で規定される、道路の種類や地域、交通量で区分される道路等級のことです。


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上記の通りに区分されるわけですが、尻手黒川道路はどの区分にあたるでしょうか?
まず、高速道路や自動車専用道路ではなく、都市部の道路のため、種は第4種となるでしょう。
級については難しいところで、平地の市町村道として第2級から第5級と絞るも、計画交通量はさすがに知りません。

単位1日あたりの交通量で考えると難しいので、1分あたりで考えてみます。
すると、
20,000台以上:20,000/24h/60min=13.9台/min
4,000台:4,000/24h/60min/=2.8台/min
という結果になります。

感覚的に、1分あたり2.8台以上は絶対に需要がありそうですし、逆に14台は通らないだろう……
という気がします。

まあ、仮に14台/min以上だったとしても、平地の市町村道ですのでどちらにせよ第2級でよさそうですね。

というわけで、道路構造令に定めるところの第4種第2級の道路であることがわかりました。

で、何で種級区分を求めたかといえば、それは道路幅員を割り出すためなのでした。

道路構造令には幅員構成に関する規定があります。
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幅員といっても様々あり、これらすべての幅を足し合わせたものが道路幅員となるわけです。
それぞれジオラマ上に落とし込むため、1つずつ見ていきましょう。

・車線数
これは現場が実際に片側2車線なので、それに従います。
現実には設計交通量などを考慮し、構造令の規定と照らし合わせて必要車線数を決定します。

・車線幅員
道路構造令第5条第4項に次の通り記載があります。
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4種2級は3.00mですね。
4車線あるので3.00×4=12.00mあることがわかります。

・中央帯
第4種道路には原則中央帯の必要がありませんが、必要に応じて設けることができます。
実際の尻手黒川道路では、基本的に中央帯はありませんが、再現箇所である現場の交差点部は異車線進入防止のためか車線分離するポールが経っています。
そのため、このポール設置部分を1.0mとして幅員に見積もっています。

・路肩
路肩も次のように定められています。
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4種道路は0.5m設ける必要があるようです。
左右あわせて1.0mを路肩分に幅員として見積もります。


付加車線・登坂車線・副道は現場にありませんので省略します。


・歩道
忘れがちですが、歩道も道路の1種です。
車道と同様、歩道も基本的に現場の交通量に応じて弾力的に幅員を設定してあげる必要があります。
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実際の現場は結構歩道が狭く、2.0m程度しかなかったように思います。
一応構造令の上では2.0mでOKなため、ジオラマでも2.0mとします。

・その他
ほかにも自転車道や植樹帯、横断歩道前滞留空間があればなおよいのですが、現場には無いため今回は無視しています。
いずれもデフォルメして設置してあげてもいいもので、特に植樹帯なんかは緑も増えてジオラマの色どりもよくなり、効果がありそうです。


・幅員の決定
以上をまとめると、ジオラマ上に落とし込む尻手黒川道路をモデルとした道路の幅員は以下のように決定されました。

・種級区分:4種2級
・車線数:4車線
・車線幅員:3.0m/1車線×4
・中央帯:交差点付近のみ1.0m
・路肩:0.5m/片側×2
・歩道:2.0m/片側×2
=合計18.0m

以上を図にすると以下のようになります。
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合計で18.0mとなり、都市計画道路の定める番号によるところの、代表幅員16m以上22m未満にも合致しますね。
1/150として120mmと設計します。


・隅切り
交差点を曲がるとき、本当の意味で90°の直角で曲がれる車はまずありません。
大抵の場合、ある程度の半径をもつ曲線を描きつつ曲がっていくはずです。
このとき、前輪と後輪の軌跡が異なり、後輪の軌跡が内側に寄るため、歩道に乗り上げてしまいます。
これを"内輪差"というのは、免許を持っている方なら全員知っているはずですね。

このように、内輪差で乗り上げないためにも交差点の角を切り欠いてあげなければなりません。
この切り欠き部分のことを"隅切り"と呼びます。

4種道路の交差点の場合、"道路構造令の解説と運用"において、次の通り曲線半径が定められています。
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今回のジオラマでは、尻手黒川道路と駅北側へ延びる交差道路が2級、駅南側へ延びる道路は一方通行で3級相当とみなしました。
というわけで、

・交差点南側隅切り:R10m
・交差点北側隅切り:R5m

で再現しています。

ここまで、車道幅員と交差点幅員の隅切りを考慮して、CAD上にその構成を1/150スケールで落とし込んでみました。
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どうでしょう?
交差点上を斜めに横切っているのが鉄道の高架です。
さらに、斜めから見て盛土や高架橋との関係も見てみます。
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かなりいい感じでイメージできますね!
何やら後ろに立っているのは田園都市線でおなじみの門型鉄塔です。
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すでにTwitterで試作品を投稿しましたね。

本日はここまで!
次回はこの設計を基に実際にジオラマパネル上に作り込んでいきます。