前回は保線業務の概要をお伝えしましたが、
今回は実際の保線業務について詳しく見ていきます。

まずは検査です。

保線業務は線路を直すことに目が向きがちですが、何より重要なのは"検査"することです。
別に異常が無ければ、定められた交換・補修期限さえ守っていれば何もしなくてもよいのです。
また、懸念事項があったとしても、詳細に検査した結果放置してもよいと判断できれば
すぐに直す必要もありません。
むしろ、膨大な固定資産のすべてに逐一手を入れることは現実的に不可能なので、
これまでの経験則に基づいて、”"適切な時期に適切な処置"をしていかなければ直すものも直せません。
これが、鉄道というシステムが経験工学といわれる所以です。
軌道の検査には一般的にこれだけの種類が存在します。
それでは、これらの検査のうち特に重要なものや頻度の高いものを解説していきます。
軌道検測車(いわゆるマヤ検やドクターイエローなど)が主に担当します。

東急はデヤ検ですね。
軌道狂いは、膨大な検査項目の中でも特に重要視されます。
たとえレールやまくらぎ、道床、土木構造物に異常があっても、
軌道狂いとして現れなければ最悪脱線は免れるかもしれませんが、
軌道狂いが基準値を超えれば列車の脱線に直結するため、
定期検査だけでなく、線路付近での工事の施工前後には必ず手検測で軌道狂いを計測します。
そのため、保線作業員は検測結果に一喜一憂するわけです。
さて、軌道狂いの種類についてはそれなりに聞いたことがある人も多いのではないでしょうか?
※日本機械保線HPより


どうでもいいのですが、
分岐器は一般的に"ぶんきき"といいますが、
保線社員は皆"ぶんぎき"と濁って発音します。なんででしょう?
分岐器軌道狂い検査
さて、分岐器の各検査のうち、分岐器軌道狂い検査は、本線は軌道検測車で検測していますが、
副本線や側線など定期的な検測車走行がない場所は可搬式の測定器を使ってい測定しています。
有名なのは、カネコの"トラックマスター"や日本機械保線の"ライトレック"です。

※カネコHPより
可搬式といいつつ重量はそれなりにあるので、持ち運ぶのは大変でした。
分岐器の検査として特徴的なのは、機能検査と細密検査です。
分岐器は、軌道の中で唯一機械的な可動部を持つ構造です。
また、列車が通行する進路を構成する関係上、信号と連動して動くことが通例です。
そのため、検査によっては信号通信所との連携が必要になってきます。
複雑な構造を検査する検査項目とその方法を頭に叩き込む必要があるため、
配属当初は最も苦労する部分かもしれません。
特に分岐器の調整は、ベテラン社員でも敬遠する場合があるほどです。
検査内容を説明する前に、分岐器の構造について説明しておきましょう。
分岐器の概略図と各部名称は以下の図の通りです。

※小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)より
さらに詳細図すると、こんな形状をしています。

※ 峰製作所HPより
ほえぇーって感じよくわからないと思いますが、
この分岐器に対して、保線側から見て正常に機能しているかどうか検査するのが機能検査です。
掘り下げていきましょう。
分岐器機能検査
月一回単位で検査します。
保線側から見て分岐器が正常に機能しているかどうか検査するのが機能検査ですが、
保線側から見て正常に機能している状態とは?
=然るべき場所が確実に接着・密着しており、
レールや分岐器部品に正常な機能を阻害する異常が認められないか検査すること。
確実な接着・密着とは?
=基本レールとトングレール(可動クロッシングの場合は加えて翼レールとノーズ)が
接着(触れている)・密着(隙間なくぴったりとくっついている)していること。
正常な機能を阻害する異常が認められないとは?
レールフローやレール傷、異物介在の有無、フランジウェイ幅やバックゲージの測定、転てつ棒ボルトの締め付け状態、控え棒の張りすぎ・緩みすぎ、締結装置類の緩み・抜け、ガードレールのフローの有無、トングレールの食い違い、……etc が問題ないこと。

※ 保線ウィキ 水平裂 より
探傷液は、探傷液(赤)と現像液(白)に分かれており、
先に赤い探傷液をレール振りかけてから白い現像液を振りかけます。
傷があると、その部分だけ赤い探傷液が浮き上がってくる仕組みです。
これをポイント部の基本レールとトングレールのほぼ全域全周、クロッシングのほぼ全域全周、
ボルト穴や継目板、溶接部の全周で行います。
そのほか、レールフローや床板傷の削正、ガードレールの調整なども同時に行います。
レールを解体する関係上、機能検査で行う項目のほとんどを同時に行わなければなりません。
また、解体した分岐器を元に戻す際には、
転てつ棒や控え棒の張りを調整する必要があります。
控え棒とは、分岐器番数の大きい分岐器において、
トングレール同士を中間で連結する棒のことで、長さを調節することができます。
基本レールとトングレールの確実な密着・接着やレール剛性の向上に寄与する重要な部品です。
上に掲載した分岐器詳細図の " i " の部分がそれです。
分岐器番数の大きなものほど控え棒の数は増え、調整難度も上がります。

何度か転換させ、控え棒の長さを調整するたびにシックネスで基本とトングの隙間を測ります。
これらを正しく調整しないと、
基本とトングの接着・密着不良や張りすぎによるレールの小返り(レールが横に傾くこと)
を引き起こし、後に転換不良の要因を作ることになります。
検査項目の多さと作業労力から考えて、あらゆる軌道検査で最も大変な検査といえるでしょう。
目視だけでなく、五感をフルに使って異常を読み取らなければなりません。
レール傷があれば異音が聞こえますし、列車から焦げたような異臭がするかもしれません。
付近の竹林から竹が伸びて支障しそうとか、列車と衝突した動物の死骸を見つけたこともありました。
あくまで列車の営業に支障がないかを地上から総合的に判断することが求められます。
そこに保線だから、土木だから、車両や電気だからという系統の違いはないのです。

巡回検査は、作業責任者と列車見張り員の最低二人一組で行動します。
このとき、作業責任者は線路の点検に注力しますが、見張り員は見張に専念しなければなりません。
作業に夢中で列車の進来に気づくのが遅れては見張の意味がありません。
巡回検査の際、保線員として目につくのは道床固結や噴泥箇所です。

※ 保線ウィキ 噴泥 より
砕石が白く変色しているのは、劣化して細かくなった砕石が雨水と混ざり泥上になって、
その泥が列車の通過のたびに吹き上げられるためです。
これが道床噴泥と呼ばれる現象です。
このような箇所では、まくらぎが締結装置を介してレールに中吊りになる
まくらぎ浮きの状態になっています。

列車が通ると、その重みで列車荷重と釣り合うまでまくらぎが沈みます。
非常に高低狂いが進んでしまうため、よく監視する必要があります。
解決策としては、レールを吊り上げてまくらぎ下の砕石をタイタンパで突き固めることで
整正されますが、写真のようにひどい噴泥は、道床交換をしないと抜本的な解決になりません。
実際にこのような箇所を列車が通過するところを傍で観察すると、
レールがバネのようにぴょんぴょん跳ねます。
その時の沈み方と直近の軌道検測チャートを見て、
◯mmの沈下だから大丈夫そうとか、◯mmも沈下しているから早急に手を入れたい、
などと判断しています。
最終的には人の目で判断しているのです。
他にもいろいろと検査はあるのですが、頻度が高くかつ特に重要なものをご紹介しました。
どれも列車の安全につながることがよくわかると思います。
次回は、これらの検査を基に補修計画を立てる部分のお話です。
今回は実際の保線業務について詳しく見ていきます。

まずは検査です。
- 検査

保線業務は線路を直すことに目が向きがちですが、何より重要なのは"検査"することです。
別に異常が無ければ、定められた交換・補修期限さえ守っていれば何もしなくてもよいのです。
また、懸念事項があったとしても、詳細に検査した結果放置してもよいと判断できれば
すぐに直す必要もありません。
むしろ、膨大な固定資産のすべてに逐一手を入れることは現実的に不可能なので、
これまでの経験則に基づいて、”"適切な時期に適切な処置"をしていかなければ直すものも直せません。
これが、鉄道というシステムが経験工学といわれる所以です。
軌道の検査には一般的にこれだけの種類が存在します。
軌道狂い検査、分岐器軌道狂い検査、分岐器保守機能検査、分岐器細密検査、伸縮継目細密検査、接着絶縁継目一般検査、接着絶縁継目凹凸検査、レール摩耗検査、ロングレールふく伸検査、脱線防止ガード検査、まくらぎ状態検査、道床状態検査、線路巡回、列車巡回……etc
※なお、これら検査項目は、国交省の"鉄道に関する技術上の基準を定める省令"に検査種類とその周期が定められており、この省令に収まるようにさらに厳しい基準を社内規定として設けるのが通例です。
これらすべてを毎日行うわけではありません。
大体、1か月周期、半年周期、1年周期の検査が多いでしょうか。
ちなみに新幹線と在来線でも検査周期が異なり、大抵の場合新幹線の方が検査周期は短くなります。
検査によっては線路を塞いでしまう(=通行不可となる)検査もあるので、
そのような検査は線路閉鎖しなければなりません。
そうすると夜間の様々な作業に支障するため、重要な検査は年初の段階で施工日を決めてしまいます。
※なお、これら検査項目は、国交省の"鉄道に関する技術上の基準を定める省令"に検査種類とその周期が定められており、この省令に収まるようにさらに厳しい基準を社内規定として設けるのが通例です。
これらすべてを毎日行うわけではありません。
大体、1か月周期、半年周期、1年周期の検査が多いでしょうか。
ちなみに新幹線と在来線でも検査周期が異なり、大抵の場合新幹線の方が検査周期は短くなります。
検査によっては線路を塞いでしまう(=通行不可となる)検査もあるので、
そのような検査は線路閉鎖しなければなりません。
そうすると夜間の様々な作業に支障するため、重要な検査は年初の段階で施工日を決めてしまいます。
それでは、これらの検査のうち特に重要なものや頻度の高いものを解説していきます。
- 軌道狂い検査
軌道検測車(いわゆるマヤ検やドクターイエローなど)が主に担当します。

東急はデヤ検ですね。
軌道狂いは、膨大な検査項目の中でも特に重要視されます。
たとえレールやまくらぎ、道床、土木構造物に異常があっても、
軌道狂いとして現れなければ最悪脱線は免れるかもしれませんが、
軌道狂いが基準値を超えれば列車の脱線に直結するため、
定期検査だけでなく、線路付近での工事の施工前後には必ず手検測で軌道狂いを計測します。
そのため、保線作業員は検測結果に一喜一憂するわけです。
さて、軌道狂いの種類についてはそれなりに聞いたことがある人も多いのではないでしょうか?
※日本機械保線HPより

軌間"は文字通り左右レールの幅を表します。
そして"水準"とは、左右レールの高低差を表す軌道変位の一つです。
さらに、レール長手方向の高低差を"高低"、まくらぎ方向の変位を"通り"と呼び、
これらを合わせて軌道変位の4項目と呼ばれます。
これらを合わせて軌道変位の4項目と呼ばれます。
また、これらの変位の頭文字をとって"キスコト"と呼ばれることもあります。
この他、"平面性"という検査項目があります。

※日本機械保線HPより
これは、一定の距離(ボギー台車の軸距の場合もある)に対する水準の変化量を表す変位です。
距離は一定で水準は計測済みですので、検測車自体が平面性を直に計測するわけではなく、
水準の値から検測車が自動的に演算しています。
さて、上の軌道狂いの各図をよく見ると、
軌間と水準はある1点で普通に計測していますが、
高低と通りは、10mの中点で計測していることが分かると思います。
この計測方法を"10m弦正矢法"と呼び、これが高低・通り検測の基礎的な検測方法となります。
ある一点を基準として正確に測量して、線路敷設時の線形と比較できればいいのでしょうが、
延長数キロから数百キロにわたる距離を毎月測量するのは現実的ではありませんので、
任意の計測点の前後5m=10m間の相対変位量を"軌道狂い"として算出するのです。
これなら、現場では10mの糸を張れば人力でも簡単に手検測が可能です。
この理屈で行くと、実は線路敷設時の線形とは大きく狂ってしまっても問題ないことになります。

これでは正確に測れていないじゃないか!と怒られてしまいそうですが、
経験的かつ理論的に、この10m弦正矢法での測定で基準値内に収まっていれば
安全上は問題ないと検証されています。
10mの間に1mズレる線路と、
1kmの間に1mズレる線路を想像すれば、その意味の違いが感覚的にわかると思います。
こうすることで、線路のゆがみが簡単に測定でき、安全かどうか確かめることができるのです。
また、安全上は問題ないからと言って、
元の線形から変形しすぎると乗り心地が悪くなる場合がありますから、
絶対的な狂い量も検測したいのです。
そのための検測方法もあるのですが、それだけで記事が作れてしまうほど濃い内容ですので、
気になる方は論文も数多く公開されていますから調べてみてください。
他にも20m弦や40m弦、10m弦から元線形を復元する復元原波形など、
さまざまな検測手法が取り入れられ整備されています。
この他、"平面性"という検査項目があります。

※日本機械保線HPより
これは、一定の距離(ボギー台車の軸距の場合もある)に対する水準の変化量を表す変位です。
距離は一定で水準は計測済みですので、検測車自体が平面性を直に計測するわけではなく、
水準の値から検測車が自動的に演算しています。
さて、上の軌道狂いの各図をよく見ると、
軌間と水準はある1点で普通に計測していますが、
高低と通りは、10mの中点で計測していることが分かると思います。
この計測方法を"10m弦正矢法"と呼び、これが高低・通り検測の基礎的な検測方法となります。
ある一点を基準として正確に測量して、線路敷設時の線形と比較できればいいのでしょうが、
延長数キロから数百キロにわたる距離を毎月測量するのは現実的ではありませんので、
任意の計測点の前後5m=10m間の相対変位量を"軌道狂い"として算出するのです。
これなら、現場では10mの糸を張れば人力でも簡単に手検測が可能です。
この理屈で行くと、実は線路敷設時の線形とは大きく狂ってしまっても問題ないことになります。

これでは正確に測れていないじゃないか!と怒られてしまいそうですが、
経験的かつ理論的に、この10m弦正矢法での測定で基準値内に収まっていれば
安全上は問題ないと検証されています。
10mの間に1mズレる線路と、
1kmの間に1mズレる線路を想像すれば、その意味の違いが感覚的にわかると思います。
こうすることで、線路のゆがみが簡単に測定でき、安全かどうか確かめることができるのです。
また、安全上は問題ないからと言って、
元の線形から変形しすぎると乗り心地が悪くなる場合がありますから、
絶対的な狂い量も検測したいのです。
そのための検測方法もあるのですが、それだけで記事が作れてしまうほど濃い内容ですので、
気になる方は論文も数多く公開されていますから調べてみてください。
他にも20m弦や40m弦、10m弦から元線形を復元する復元原波形など、
さまざまな検測手法が取り入れられ整備されています。
- 分岐器軌道狂い検査・機能検査・細密検査

どうでもいいのですが、
分岐器は一般的に"ぶんきき"といいますが、
保線社員は皆"ぶんぎき"と濁って発音します。なんででしょう?
分岐器軌道狂い検査
さて、分岐器の各検査のうち、分岐器軌道狂い検査は、本線は軌道検測車で検測していますが、
副本線や側線など定期的な検測車走行がない場所は可搬式の測定器を使ってい測定しています。
有名なのは、カネコの"トラックマスター"や日本機械保線の"ライトレック"です。

※カネコHPより
可搬式といいつつ重量はそれなりにあるので、持ち運ぶのは大変でした。
分岐器の検査として特徴的なのは、機能検査と細密検査です。
分岐器は、軌道の中で唯一機械的な可動部を持つ構造です。
また、列車が通行する進路を構成する関係上、信号と連動して動くことが通例です。
そのため、検査によっては信号通信所との連携が必要になってきます。
複雑な構造を検査する検査項目とその方法を頭に叩き込む必要があるため、
配属当初は最も苦労する部分かもしれません。
特に分岐器の調整は、ベテラン社員でも敬遠する場合があるほどです。
検査内容を説明する前に、分岐器の構造について説明しておきましょう。
分岐器の概略図と各部名称は以下の図の通りです。

※小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)より
さらに詳細図すると、こんな形状をしています。

※ 峰製作所HPより
ほえぇーって感じよくわからないと思いますが、
この分岐器に対して、保線側から見て正常に機能しているかどうか検査するのが機能検査です。
掘り下げていきましょう。
分岐器機能検査
月一回単位で検査します。
保線側から見て分岐器が正常に機能しているかどうか検査するのが機能検査ですが、
保線側から見て正常に機能している状態とは?
=然るべき場所が確実に接着・密着しており、
レールや分岐器部品に正常な機能を阻害する異常が認められないか検査すること。
確実な接着・密着とは?
=基本レールとトングレール(可動クロッシングの場合は加えて翼レールとノーズ)が
接着(触れている)・密着(隙間なくぴったりとくっついている)していること。
正常な機能を阻害する異常が認められないとは?
レールフローやレール傷、異物介在の有無、フランジウェイ幅やバックゲージの測定、転てつ棒ボルトの締め付け状態、控え棒の張りすぎ・緩みすぎ、締結装置類の緩み・抜け、ガードレールのフローの有無、トングレールの食い違い、……etc が問題ないこと。
これらすべてを検査するのが分岐器機能検査です。
具体的な検査方法をいくつか見てみましょう。
基本レールとトングレールの接着・密着
まず、基本レールとトングレールの接着・密着については、その名の通りです。
これが接着・密着していないと偏摩耗を起こしたり、
車輪のフランジが割り込んでしまい、最悪脱線してしまいます。
まさに分岐器の機能を検査する要の部分といえますね。

このようなシックネスゲージといわれる0.1mm単位の薄い金属板を、
接触している基本レールとトングレールの間に差し込みます。

ポイント部のトングレールは、転てつ棒の力で左右基本レールのどちらかに必ず接触しています。
ポイント先端部に近いところは転てつ棒の圧力がかかりますから、
原則隙間なし=シックネスが入らないこととされており、
この状態を"密着"と呼んでいます。
また、ポイント先端から数百mm~レール曲げ点までの部分は、転てつ棒の圧力が加わらないものの、
0mm~0.5mmというように、一定の隙間未満で一様に接触している状態となるので、
これを"接着"と呼んでいます。
本線側(定位)を検査したら、転換して副本線側(反位)も同様に検査します。
レールフロー・レール傷の有無
まずレールフローとは何か?ということですが、分岐器に限らずレールには"フロー"と呼ばれる
"バリ"が発生します。プラモデルのキットなんかでよくみられるあの"バリ"です。

※ 保線ウィキ フロー より
レールほどの鋼鉄にも、列車荷重のような強い圧力がかかり続けると少しずつ変形していきます。
この現象を塑性流動といいますが、
特に分岐器ポイント部は横圧が強くかかるため、フローが発生しやすくなります。
場合によってはこのフローがトングレール転換時に引っかかって転換不良を引き起こしたり、
フローに沿って水平裂という重大なレール傷に発展したり、
フローの破片が絶縁部に落ちて短絡したりと問題を引き起こすのです。

このような顕著なレールフローを検査時に洗い出して置き、
後述する細密検査の際にサンダーで削っておきます。
フランジウェイ幅(FW)・バックゲージ(BG)の測定
フランジウェイとはその名の通り、フランジの通る道のことで、
ガードレールとクロッシング部の間に存在するほか、
基本レールとトングレールのFWは最も接近する部分の幅を代表して測定します。
またバックゲージは、分岐器でいう場合は
ガードレールの車輪接触側面からノーズレールの車輪接触側面まで、ということになるのしょうか。

ガードレールは、異線進入やノーズレールの側摩耗防止のため取り付けられています。
しかし、ガードレールやノーズの摩耗が進んでFW幅やBGの測定値が基準値から外れると、
ガードレールとしての機能を果たさなくなってしまうため、
異常摩耗や脱線に繋がる問題が生じるのです。
なお、可動クロッシングの場合はガードレールの必要はありませんが、
分岐線側にはほぼ必ず取り付けられています。
これは、高価な可動ノーズを摩耗させるより
ガードレールを摩耗させる方がコストが抑えられるためです。
主要な機能検査はこんな感じですが、ほかに挙げた検査内容も重要なものばかりです。
一台だけならまだしも、たいていの場合一晩で数台~十数台検査するため、
かなり大変な検査といえます。
細密検査
半年に一回単位で検査します。
機能検査では、解体しないいわゆる"在姿"の状態で検査しましたが、
細密検査ではレールを吊り上げて解体検査します。
検査内容は、機能検査のように目視や器具測定だけでなく、
探傷液浸透検査(カラーチェック)を行います。
具体的な検査方法をいくつか見てみましょう。
基本レールとトングレールの接着・密着
まず、基本レールとトングレールの接着・密着については、その名の通りです。
これが接着・密着していないと偏摩耗を起こしたり、
車輪のフランジが割り込んでしまい、最悪脱線してしまいます。
まさに分岐器の機能を検査する要の部分といえますね。

このようなシックネスゲージといわれる0.1mm単位の薄い金属板を、
接触している基本レールとトングレールの間に差し込みます。

ポイント部のトングレールは、転てつ棒の力で左右基本レールのどちらかに必ず接触しています。
ポイント先端部に近いところは転てつ棒の圧力がかかりますから、
原則隙間なし=シックネスが入らないこととされており、
この状態を"密着"と呼んでいます。
また、ポイント先端から数百mm~レール曲げ点までの部分は、転てつ棒の圧力が加わらないものの、
0mm~0.5mmというように、一定の隙間未満で一様に接触している状態となるので、
これを"接着"と呼んでいます。
本線側(定位)を検査したら、転換して副本線側(反位)も同様に検査します。
レールフロー・レール傷の有無
まずレールフローとは何か?ということですが、分岐器に限らずレールには"フロー"と呼ばれる
"バリ"が発生します。プラモデルのキットなんかでよくみられるあの"バリ"です。

※ 保線ウィキ フロー より
レールほどの鋼鉄にも、列車荷重のような強い圧力がかかり続けると少しずつ変形していきます。
この現象を塑性流動といいますが、
特に分岐器ポイント部は横圧が強くかかるため、フローが発生しやすくなります。
場合によってはこのフローがトングレール転換時に引っかかって転換不良を引き起こしたり、
フローに沿って水平裂という重大なレール傷に発展したり、
フローの破片が絶縁部に落ちて短絡したりと問題を引き起こすのです。

このような顕著なレールフローを検査時に洗い出して置き、
後述する細密検査の際にサンダーで削っておきます。
フランジウェイ幅(FW)・バックゲージ(BG)の測定
フランジウェイとはその名の通り、フランジの通る道のことで、
ガードレールとクロッシング部の間に存在するほか、
基本レールとトングレールのFWは最も接近する部分の幅を代表して測定します。
またバックゲージは、分岐器でいう場合は
ガードレールの車輪接触側面からノーズレールの車輪接触側面まで、ということになるのしょうか。

ガードレールは、異線進入やノーズレールの側摩耗防止のため取り付けられています。
しかし、ガードレールやノーズの摩耗が進んでFW幅やBGの測定値が基準値から外れると、
ガードレールとしての機能を果たさなくなってしまうため、
異常摩耗や脱線に繋がる問題が生じるのです。
なお、可動クロッシングの場合はガードレールの必要はありませんが、
分岐線側にはほぼ必ず取り付けられています。
これは、高価な可動ノーズを摩耗させるより
ガードレールを摩耗させる方がコストが抑えられるためです。
主要な機能検査はこんな感じですが、ほかに挙げた検査内容も重要なものばかりです。
一台だけならまだしも、たいていの場合一晩で数台~十数台検査するため、
かなり大変な検査といえます。
細密検査
半年に一回単位で検査します。
機能検査では、解体しないいわゆる"在姿"の状態で検査しましたが、
細密検査ではレールを吊り上げて解体検査します。
検査内容は、機能検査のように目視や器具測定だけでなく、
探傷液浸透検査(カラーチェック)を行います。

※ 保線ウィキ 水平裂 より
探傷液は、探傷液(赤)と現像液(白)に分かれており、
先に赤い探傷液をレール振りかけてから白い現像液を振りかけます。
傷があると、その部分だけ赤い探傷液が浮き上がってくる仕組みです。
これをポイント部の基本レールとトングレールのほぼ全域全周、クロッシングのほぼ全域全周、
ボルト穴や継目板、溶接部の全周で行います。
そのほか、レールフローや床板傷の削正、ガードレールの調整なども同時に行います。
レールを解体する関係上、機能検査で行う項目のほとんどを同時に行わなければなりません。
また、解体した分岐器を元に戻す際には、
転てつ棒や控え棒の張りを調整する必要があります。
控え棒とは、分岐器番数の大きい分岐器において、
トングレール同士を中間で連結する棒のことで、長さを調節することができます。
基本レールとトングレールの確実な密着・接着やレール剛性の向上に寄与する重要な部品です。
上に掲載した分岐器詳細図の " i " の部分がそれです。
分岐器番数の大きなものほど控え棒の数は増え、調整難度も上がります。

何度か転換させ、控え棒の長さを調整するたびにシックネスで基本とトングの隙間を測ります。
これらを正しく調整しないと、
基本とトングの接着・密着不良や張りすぎによるレールの小返り(レールが横に傾くこと)
を引き起こし、後に転換不良の要因を作ることになります。
検査項目の多さと作業労力から考えて、あらゆる軌道検査で最も大変な検査といえるでしょう。
- 線路巡回・列車巡回
目視だけでなく、五感をフルに使って異常を読み取らなければなりません。
レール傷があれば異音が聞こえますし、列車から焦げたような異臭がするかもしれません。
付近の竹林から竹が伸びて支障しそうとか、列車と衝突した動物の死骸を見つけたこともありました。
あくまで列車の営業に支障がないかを地上から総合的に判断することが求められます。
そこに保線だから、土木だから、車両や電気だからという系統の違いはないのです。

巡回検査は、作業責任者と列車見張り員の最低二人一組で行動します。
このとき、作業責任者は線路の点検に注力しますが、見張り員は見張に専念しなければなりません。
作業に夢中で列車の進来に気づくのが遅れては見張の意味がありません。
最近はハンディタイプの列車接近警報器が普及しましたが、
やはり営業線の作業では列車見張員の存在は欠かせません。
見通し不良区間では、列車見張員を立てていても触車事故が絶えませんから、
非常に重要な役職といえましょう。
そして、軌道内を歩く際は必ず列車の進行方向と向かい合うように歩かなければなりません。
これは列車の接近に気づきやすくするためで、このような歩き方を"対向"といい、
逆に列車の進行方向と同じ向きに歩くことを"背向"といいます。
背向で歩くのは列車の進来に気づき辛く危険なため原則禁止です。
やむを得ず背向で歩く場合は要注意かつ素早く済ませます。
また、線路巡視だけでなく、線路内立入作業の際は必ず作業責任者の他に列車見張員を立てます。
巡回検査の際、保線員として目につくのは道床固結や噴泥箇所です。

※ 保線ウィキ 噴泥 より
砕石が白く変色しているのは、劣化して細かくなった砕石が雨水と混ざり泥上になって、
その泥が列車の通過のたびに吹き上げられるためです。
これが道床噴泥と呼ばれる現象です。
このような箇所では、まくらぎが締結装置を介してレールに中吊りになる
まくらぎ浮きの状態になっています。

列車が通ると、その重みで列車荷重と釣り合うまでまくらぎが沈みます。
非常に高低狂いが進んでしまうため、よく監視する必要があります。
解決策としては、レールを吊り上げてまくらぎ下の砕石をタイタンパで突き固めることで
整正されますが、写真のようにひどい噴泥は、道床交換をしないと抜本的な解決になりません。
実際にこのような箇所を列車が通過するところを傍で観察すると、
レールがバネのようにぴょんぴょん跳ねます。
その時の沈み方と直近の軌道検測チャートを見て、
◯mmの沈下だから大丈夫そうとか、◯mmも沈下しているから早急に手を入れたい、
などと判断しています。
最終的には人の目で判断しているのです。
他にもいろいろと検査はあるのですが、頻度が高くかつ特に重要なものをご紹介しました。
どれも列車の安全につながることがよくわかると思います。
次回は、これらの検査を基に補修計画を立てる部分のお話です。
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