前回の続きです。

ここからは、
Ojスケールでの造形にあたっての設計状況をお伝えします。

まず基本方針ですが、今回は、
本当に3DプリンタでOjスケール再現することが可能か?適当なのか? を確かめる!
という考えで作成していきます。

そのため、本当はCADデータを1から製作するのがベストなのでしょうが、
Nスケールの設計から尺度変更で対応可能かどうか調べる意味でも
以前から作成してきたNゲージサイズのCAD設計を流用します。

まず、Nスケールのデータをコピーして、修正ツールから尺度を選びます。
スライド1
1/150から1/45にスケールアップするということは、
150/45で3.333……倍すればよいのですが、割り切れないので
尺度係数の欄に150/45と数式自体を入れると正確に計算されます。
スライド2
これは尺度に限らず、各部のスケッチ寸法で割り切れない場合も同様です。
2800mm幅の車体の1/150でスケッチすると、18.666……mmですが、
線分や長方形の寸法欄に2800/150とそのまま入力すればよいのです。
こうすることで、"資料の原図上では交わるべき線が自分のCAD上では交わらない"、
といった問題が解消されます。
この問題は、割り切れない寸法を少数第〇位で自分で勝手に丸めてしまうと、
コンマ数ミリの隙間が空くことがあるため発生します。
そのような問題を無くすためにも、割り切れない寸法は数式で代入することをお勧めします。


尺度がOjサイズに変更されたら、各部のディテールをOjスケールに合わせていきます。
例えば、
コルゲート端部はNスケールでは省略したテーパー処理を加えています。
スライド3

ヘッドライトはヒンジを再現。
手すりは試作品のため一体成型ですが、事前に穴をあけて真鍮線などを通せば別パーツ化も可能です。
スライド4

その他、薄板部分や彫りの浅い部分などを微調整します。
Nスケールからすべての部位が3.333……倍されているわけですから、
場所によっては必要以上に厚い部分があるはずです。
特に、Nスケールという小ささを考慮して肉厚を増していた部分があるなら
この段階で肉抜きしましょう。


ボディの修正はこの程度でしたが、床下機器や台車はそうはいきません。

空気ダメ配管は単体でも厚みがあるため、サポート部分を一部切除しました。
スライド5

機器の一つ一つも大きいため肉抜きします。
スライド6
非常に肉厚が薄いように見えますが、これでも1mmあります。
もちろん全体の大きさに対して適切な厚みを確保しないとモーメントの力でポキっと行きますので、
そこはバランスを考えてください。
また、精密に作ろうとして機器裏側の見えにくい部分を作り込みたくなりますが、
3Dプリントで肉抜きをしないと価格が相当跳ね上がりますので工夫が必要です。

床板も厚みを削っています。
スライド7

本当は台ワクを模して梁やキーストンプレートの表現を加えたいところですが、今回は省略します。
その代わりに変形抑制用の縦梁2本を加えています。
なお中心ピンは、このモデルにおいては牽引力を伝える役割を果たすので
この段階で作成しておきます。


屋根板も厚みを削ります。
スライド8
床板と同様扁平ですから、変形防止用に縦梁を2本通しています。
実車はさらに縦横に幾重にも梁が通ります。

クーラーもこの通りですが、さらにファン部分を別パーツにしてみました。
スライド9
スライド10
やる気次第ではファンの回転も可能です。


一番苦労したのが台車で、
空気ばねとボルスタ・ボルスタアンカ・ボルスタアンカ受けの表現をより実感的に再現しました。
スライド11
スライド12
Nとは違う狭軌感がよろしいですね。

ボルスタアンカ受けは車体側につくものですが、台車の首振りとの干渉を避けられないため
泣く泣く台車側に表現しています。
また、ボルスタアンカ受けを車体側に表現できないため、
本来ボルスタアンカを通して車体と台車に働く牽引力伝達機構を
車体側の中心ピンと台車心皿のみで担っています。

ボルスタアンカ受けを車体側に表現しても台車の首振りを阻害しない
いい方法があったらお知らせください。

空気ばねも別パーツ化しました。
ここではちょっと面白い実験を考えてまして、
空気ばねをDMMのAgilistaというシリコンゴムで再現してみようと思います。
スライド17
このOjモデルはNと違い、荷重を
床板

空気ばね

ボルスタ

台車側梁

軸箱(軸受け)

車輪
※(ダイレクトマウント台車の場合)
と実車同様に伝える設計になっています。

この荷重伝達経路全てがABSライクの樹脂やナイロンでは軌道からの振動をもろに拾いますので、
サスペンションとしての機能をAgilista製空気ばねに持たせてみたいと思います。

軸受けは内側にベアリングを入れられるよう設計。
スライド13
ベアリングは超小型の精密ベアリングの中でもっとも安価に手に入りそうな
外形Φ8.0、内径Φ4.0、幅3.0のものが入るよう設計しました。

車輪は波打車輪を再現。
スライド14
車輪に関しては、
3Dプリンタでキャストレジンを造形して、ロストワックス製品を鋳造している
宝飾品メーカーのFORMEさんにお願いしてみました。

車軸先端は上記ベアリングにフィットするよう設計しています。
スライド15
絶縁のため車軸は片輪分のみとし、ナイロン製の中空車軸にはめ込むようにします。
KATOの絶縁車輪と構造はほぼ同じですね。

スライド16
車輪踏面からフランジに至る勾配の付け方は、国鉄標準設計に準拠しています。
そのためリアルな設計になっていますが、フランジ高さが0.6mmと非常に背が低いため、
実用的かといわれると……?
ビジュアル面では満点です。


最後に全体図を。
スライド18
全体図を見ると何らNスケールと変わりありませんが、
細かいところでOj仕様に設計変更してあります。

このあたりは、再現性・コスト・強度を比較しつつ、
自分にとって・あるいはユーザーにとって
許容できるであろう最適なバランスでモデリングしなければなりません。
ある意味モデラ―の一番の腕の見せ所なのかもしれません。


Ojスケールに修正が終わったら、
3Dプリント用に並び替えます。
分かりやすいよう、発注する素材ごとにファイルを分けておきます。
スライド19
スライド20
スライド21
出力形態によっては、造形範囲内ならば相当数のパーツを並べても造形可能なので、
並べられる限り詰め込みます。

表面の再現性がとくに必要ない部分は、造形方向の上下に重ねてしまってもよいでしょう。

3Dプリントは次の通り素材を分けて発注します。
車体・台車・床下機器:光造形(INTER CULTURE)
屋根板・床板・車軸中央:ナイロン(DMM.Make)
車輪:キャストレジン⇒ロストワックス(FORME)
台車空気ばね:Agirista(DMM.Make)



とここまできて造形結果をと紹介したいところですが、
想像以上に設計紹介だけで記事が長くなってしまいましたので、
造形品の紹介は次に回します。
引っ張ってしまって申し訳ないのですが、
記事にするのも意外と時間を食うもので……
とりあえず何枚か写真だけ載せておきます。
詳細は次の記事をご覧ください。

・・・・・・


車体を先行して発注しておりましたので、先に車体のみ到着。
IMG_7190
このデカさ、Ojの醍醐味ですね。

デハ8600のみですが、かなり威圧感があります。
IMG_7184


先にTwitterにUPしていたロストワックス車輪を磨いてみました。
金管楽器のような美しい金色が綺麗ですね。
IMG_7163
3Dプリンタでキャストレジンを造形し、ロストワックスを鋳造する製法は
宝飾業界では当たり前になっているようです。
鉄道模型や工業製品にも十分に応用可能ですが、
ネックはキャストレンジの素材が非常に高価なところでしょうか。

この後さらにメーカーさんにゴム型を作成してもらい、車輪を量産します。


続きは次回!