線路は"生き物"だといわれます。
数十トンの鉄の塊が時速数十~数百キロで走れば
線路にも多くの力が加わることは想像に難くありません。

それだけでなく、
レールは温度によって伸び縮みしますし、分岐器は軌道で唯一自分で機械動作するものです。
大きな力が加われば必ずそこに摩擦や摩耗、変形が生じるものです。
日々少しづつ、しかし確実に動いているところに"生き物"といわれる所以があります。

そしてそれらは列車に対して悪影響を及ぼします。
だから日々の点検と適切な保守作業が肝要です。

2014年7月某日 梶が谷にて 
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在来線では列車の動いている日中でも保守作業を行います。
新幹線は営業時間帯の軌道内保守作業が原則禁止とされていますが、
新幹線開業当初は日中作業もありました。

上写真で軌間内に入って左右レールに棒状のものを渡して覗き込んでいる人は、
軌間と水準を確認しているようです。

"軌間"は文字通り左右レールの幅を表します。
そして"水準"とは、左右レールの高低差を表す軌道変位の一つですが、
さらに"高低"、"通り"を合わせて軌道変位の4項目と呼ばれます。
また、これらの変位の頭文字をとって"キスコト"と呼ばれることもあります。
これらの軌道変位は定期的に計測することが省令で定められており、
一般的には軌道検測車を走らせて計測しています。
図1-1
※日本機械保線HPより

ただし、上写真のような保守作業を行う場合は
作業前と作業後の値を記録する必要があるため、計測器具を用いて手検測を行います。

上の保守作業ではタイタンパで突いているので、高低狂いを整正していたのでしょうか。
列車の繰り返し荷重により劣化した砕石は、砕石の角が取れて丸くなりかみ合わせが悪くなります。
このような砕石は支持力を失い、高低方向の軌道狂いを誘発します。
そこで、顕著な高低狂いが発生した箇所は、
レールをまくらぎごとジャッキアップし、タイタンパで振動を与えてまくらぎ下の砕石を十分に
締め固めることで高低狂い整正します。


2018年6月某日 宮崎台にて
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こちらは線路巡視中のようです。
線路巡視も省令で定期的に行うことが定められています。
じっくりと軌道内を歩いて見て回る徒歩巡視の他、
列車先頭に添乗する列車巡視もあります。

東急の列車を撮影していると、
たまに乗務員室に添乗しているオレンジ色の作業員の方が写り込むことがありますが、
車両系の人だけでなく線路・土木工務系の方も乗り合わせることがあります。

写真のように、
軌道内を歩く際は必ず列車の進行方向と向かい合うように歩かなければなりません。
これは列車の接近に気づきやすくするためで、このような歩き方を"対向"といい、
逆に列車の進行方向と同じ向きに歩くことを"背向"といいます。
背向で歩くのは列車の進来に気づき辛く危険なため原則禁止です。
やむを得ず背向で歩く場合は要注意かつ素早く済ませます。

また、線路巡視をはじめ線路内立入作業の際は必ず作業責任者の他に列車見張員を立てます。
最近はハンディタイプの列車接近警報器が普及しましたが、
やはり営業線の作業では列車見張員の存在は欠かせません。
見通し不良区間では、列車見張員を立てていても触車事故が絶えませんから、
非常に重要な役職といえましょう。


東急は車輛側の乗り心地はともかく、軌道は比較的良好に整備されているようにうかがえます。
(一昨年は信通・電力系でいろいろありましたが……)
こうした保線作業員の支えによって安全が守られているのですね。